かなな著
・・・いつの間にか、芽生の守護的な存在になっていた翔太。
体格も大きい方で、小学校の4年生のときには、芽生の背丈を軽く抜かしていた。
クラスの誰よりも成長が早く、男性的な特徴を現し出した彼に興味を隠せなかった。
どちらかといえば、芽生の方が、翔太より早熟だったのかもしれない。
翔太に対する気持ちが、“女”が“男”を想う気持ちだと、小さな子供のうちから理解してしまっていた。
それは、翔太も同じ気持ちでいてくれていると、勝手に解釈していたのだ。
お互い仲もよく、クラスが違ったものの、同級生の男子にいじめられた時も、飛んできて助けてくれたし、小学6年生になると、なぜだか二人の仲は、友達の域を超えているものとみなされてしまっていたし・・。
何気に芽生が、彼に抱きついて唇にキスしたら、そっと抱き寄せてくれた事があった。
いとこ同士の結婚は、日本で認められているのも、その時には調べをつけて分かっていた。
純粋に、彼との結婚生活を夢見れた時代だった。
中学に入ってやっと生理が始まって、大人の仲間入りができた気分の芽生は、女友達の間と、“性”に対する話で盛り上がるようになっていた。
友達経由で、幼い顔をした女の子が体験する漫画を回し読みするうちは、まだ可愛いほうで、そのうち本当に経験を持った友人達も出てき出すと、興味所ではない。
中学2年の正月休みの時だった。
両親は下でテレビを見ていた。
その晩は、お互い早めに風呂に入って、2階の翔太の部屋で、借りてきた映画を見ていたのだ。
映画の内容は、アクションが主の映画だったが、濃厚なベットシーンが繰り広げられて、妙にきまりの悪い雰囲気が流れていた。
男女が絡まりあうシーンを目にしながら、なぜだか微動だにしない翔太の体温を身近に感じてから、芽生は立ち上がった。
翔太の前に中腰になって、泳ぐ彼の瞳をジッと見つめながら、
「・・・私たちも、・・してみない?」
と言った瞬間の翔太の表情。
泳いだ瞳の焦点が一瞬にして縮まった。なのに目を見開いて、体をのけぞらせた翔太は、こういったのだ。
「マジで?相手選べよ。俺達、血が繋がっているんだぜ。」
軽く言って「ちょっとトイレ。」とつぶやいて、まるで芽生から逃げ出すようにして部屋を出て行ってしまった。
ポツンと一人残された状態になってから、やっとドン引きされた事に気付いた芽生は、これ以上彼の部屋にいるなんてできなかった。
羞恥と後悔がマゼコゼになって気分まで悪くなってきた。隣の自分の部屋に逃げて行ったのだった。
それから二人の関係は、変わってしまった。しばらく翔太は、芽生の瞳すら見てくれなくなったのだ。
ひどく悩んだ芽生が、事のいきさつも含めて友達に相談すると。
「・・・そりゃ、ドン引きすると思うよ。」
と、呆れられてしまった。
「相手を見ていいなよ。翔太、真面目じゃん。
松浦家に世話になっているっていう引け目なんてのも、あると思うし。
正直、とっさに芽生の両親の顔が浮かんだんじゃないの?
私だったら、自分から言うなんて、とてもじゃないけど、できないわ。」
・・・彼女は、わざと明るく言い放ってくれたんだと思う。
友達に、大笑いされて、一緒に笑ってごまかして、つくづくあの一言は失敗だったとガックリきた。
そもそも、翔太の気持ちが、自分にないなんて、気付きもしなかった浅はかな自分に、自己嫌悪した。
その後の一年間は最悪で、お互いきまりの悪い調子で過ごすうちに、彼なりに芽生に対する対応を、考え直してきたらしい。
両親の前にいる時は、何も言わない彼だったが、二階ですれ違った時には、わざとたちの悪い冗談を言って芽生を怒らせた。
日常的に喧嘩をするようになって、自然にきまりの悪い雰囲気は払拭されているのに、気付かされるのだった。
・・・ただ、芽生のことを、とんでもなく淫婦扱いしてくる言葉の数々には、頂けないものを感じるのだったが・・。
ほどなくして、香徳大付属の声がかかって彼は、芽生とは違う高校の進学がきまった。
そして、すぐに『寮にすむ』と芽生にだけに言った翔太に、この家にいてと、泣いて頼んだのは芽生だった。
ちょうど、芽生の父親が、県外の赴任を言い渡された時と重なって、母は父に付いてゆくことになった。すでに地元の高校の進学が決まっていた芽生は、両親についてゆくことが出来ない状況だった。
両親に『芽生を頼むわね。』
と、言われて翔太は断りきれなかったらしい。
結局彼は、は二人っきりで、ここで暮らす道を選んでくれたのだった。
彼曰く、『芽生一人で暮らすと、危ない。毎晩男を引き込むようになる』との事。
芽生も、彼の言葉に激怒しながらも、両親が引っ越しして行った後は、わざと挑発するような言動をとった。
まるで自分の肢体を見せびらかすような服装を選んできて、家の中をウロウロしたり。
無邪気な顔をして、きわどい内容の映画をレンタルしてきて、彼の部屋に入って共に見た。
時には大好きなホラーの映画を見た後は、決まって眠れなくなるのに、懲りずに見ては、夜中にベソをかき、彼のベットに潜りこむなんてことも、平気でやってのける行動をとった。
そんな芽生を、翔太は拒絶することはなかったのだ。
映画を見ようと部屋をノックすると、文句を言いながらも開けて一緒に見てくれたし、ベットに潜りこんできても、『だから、見るなって言ってるんだよ。』
と、布団をあげて、芽生を招き入れた後は、さすがに自分のベットからは降りる。そして、自分で予備の布団を持ち込み、何も言わず一緒の部屋で眠ってくれるのだった。
同じ部屋で休みながらも、翔太は決して芽生に手を出してくることはなかった。
・・・・要するに、翔太から見て芽生は、あくまで従兄妹で、そうゆう対象に見られていないのだ。
この恵まれた体躯は、想う相手には全く効果がなかった。
その現実が、認められずに、自分の魅力を理解してもらおうと、無駄な努力をして・・・。